山仕事に関して、失敗したことがもうひとつ。
<大失敗だったなぁ~・・・>と、今も反省していることがある。
野生動物への対応に関することだ。
我らが里山で、我々に一番関わりが深い野生動物と言えば
もちろん、イノシシ。
その存在感は、バツグンだ。
そして、バツグンにイメージが悪い。
何度も書いてきたことだけれども、農作物に被害を与えたり
田んぼの畦(あぜ)を、グチャグチャに掘り返してしまうから。
そのイノシシ。
実は、ほんの25年前までは、香川県にはいなかったそうなのである。
今となってはウソのような話だけれども、本当だそうだ。
ただ、
香川県の南に位置する徳島県には、いた。
その徳島県の中でも
徳島の真ん中をズドーンと流れる大河・吉野川。
この吉野川の南側にのみ、生息していたと言うのである。
吉野川の南には、四国山地と言う大きな山系がある。
徳島県と高知県の県境をいだく、深い深い山系だ。
この四国山地の中に、イノシシは住んでいて、吉野川を越えて来ることはなかった。
なので
<吉野川より北には、イノシシはいない>
が、四国では定説だったそうなのだ。
が、
イノシシは、川を渡って来てしまった・・・・・。
状況は、すぐに想像できる。
30年ほど前から、人里近くの里山は、手入れをされなくなってしまった。
なので、どの里山もジャングル状態。
野生動物は、こう言う、身を隠せるジャングル状態の場所が大好きだ。
四国山系の山奥にいたイノシシ達も
このジャングル状態の里山を伝って
ある日、ポコッと人里に出てしまった。
人里の先には、吉野川。
もちろん、橋はいっぱい架かっているので、イノシシ達はトコトコと橋を渡る。
渡った向こう岸には、人里。
そして、人里の後ろには、また、ジャングル状態の里山。
こうして、
向こう岸の里山に、イノシシ達は入っていったのだろう。
向こう岸の里山の奥には
阿讃山脈と言い
阿波(徳島県)と讃岐(香川県)との県境にまたがる山脈がある。
ここまで来れば、県境突破には、もうなんのハードルも無い。
かくして、イノシシは、香川県にやって来た・・・・・。
とは、私の立てた仮説だけれども、
多分、きっと、間違っていないと思うのだ。
こうして、我らが香川県の里山も、イノシシの被害に悩むことになる。
ただ、
我らが里山において、難儀な相手は<イノシシだけ>でもあるのだ。
香川県の別の地域には、サルの群れが生息しており
農作物に大きな被害を与えている。
そのサルは、ここにはいない。
そして
もうひとつのメジャーな害獣、シカも、ここには・・・・・。
いないはずだったのだ。
シカもまた、四国山地にはいて、吉野川より北にはいないはずだった。
が、
出たのである。
2004年5月。
我らが里山は、思いもよらぬ<シカ出没>のホットなニュースに沸いたのだった。
最初にシカ情報をくれたのは、我が義父母だった。
里山へ、早朝タケノコ掘りに行った義父母は、私達にこんなメールを送ってくれた。
<シカがいました>
「なにを寝とぼけたことを!」
もちろん、夫も私も、こう反応した。
まるっきり信じやしなかったのである。
だって、香川県に、シカはいないんだもの!
ところが、
その数日後。
山仕事をしていた我々夫婦の目の前を、
なんと、1頭のシカがトコトコ歩いてゆくではありませんか。
「ほっえーーー」
「え~え~え~。うそーー・・・・・」
街中で、砂かけばばあに会ったとしても、こういう反応しかできないでしょう。多分。
とにかく、いないはずのシカが出た。
我に返った我々がしたのは、もちろん
写真を撮ること。これ以外に、いったい何があるでしょうか。
シカと言うのは、逃げ足によっぽどの自信があるらしく
人と出会っても、適当な距離を測って、実に悠々としている。
確か、屋久島で会ったヤクシカも
奈良の大台ケ原で会ったシカも
皆、こちらが近づいたりおどかしたりしない限り、
逃げずにのん~~びり草を食べたり、じっとこちらを見ていたりしてた。
この時会ったシカも
本当に呑気と言うか、
目を点にしている我々を尻目に
ゆっくり歩いて山の中へ消えて行ってしまった・・・・・。
思いもよらないシカとの遭遇に
私も夫も大興奮だった。
ものすごく得した気分だった。
ラッキーと思っていた。
この時の興奮の様子はこちらの(3)<鹿登場!??>でどうぞ。
このシカは、その後も数週間ほど、我らが里山をうろつき
目撃した里山オーナーの面々を喜ばせ
数ヵ月後には、何故か、今度は母子連れで現れ
その母子が、最初の一頭と同じなのか、別の固体なのかは不明だけれども
やがて、パタリと姿を見せなくなった。
どこへ行ってしまったのだろうか・・・・・?
と言うより前に
あのシカ達、いったい何者?どこから来たの??
これが、当時の里山では、議論の的だった。
なにしろ、あまりにも人を怖がらないため
「どこかで飼われていたのが、捨てられたのでは・・・・・?」
と言う意見もあり
「シカを飼ってて、捨てたらばれるやろう~。やっぱり野生では?」
と言う意見もあり。
人なつっこ過ぎると言えば、向こうから人に近寄って来ることもあったらしく
人なつっこ過ぎるのだけれども
野生でも、人に怖い思いをさせられたことが無いシカなら
人を見ても
「何?このサルに似た動物」
くらいに思って、逃げないかもしれない。
私は、後者じゃないか?と思っている。
イノシシと同じで、四国山地から、
吉野川を渡って野生のシカがやって来たのではなかろうか・・・・・?と。
ただ、それなら、その後もひんぱんに、シカは次々と現れるはず。
しかし、あれから3年。
シカの出没は無いのだ。
では、やっぱりペット・・・・・?
真実はどうあれ
野生かもしれない以上
私達の行動は間違っていた
と今は思う。
野生動物が人里に出て来てすることは、農作物を食べること。
この時のシカも
マスターTさんの目撃情報によれば
どこかの畑・・・・・おじいさんがやってる家庭用の野菜畑だったらしいが
その畑で、ホウレンソウだかの若い葉をムシャムシャ食べていたそうだ。
もしこれが、出荷用の野菜畑ならば!?
野生かもしれない以上
私達がするべきことは、このシカを追い払うことだった。
小石を投げて。
棒を振り回して。
大声を上げて追いかけて。怒鳴り散らして。
人里に出てきても幸せなことは何も無いよと、
シカに教えなければならなかったのだ。
人の姿を見たら、逃げなさい。
畑の作物の味を覚えてしまう前に、
逃げて山へ帰りなさい。
もう、ここへ来てはいけない。
そう教えなければならなかった。
ものめずらしさから
可愛い~。
うそ~~・・・・・。
なんて言ってる場合じゃなかったのだ。
大失敗だった。
このシカのためにも、石をブンブン投げるべきだったのだ。
それがお互いのためだったはず・・・・・。
以来、シカは我らが里山には来ていないし
それが最良のことなのだけれども、
もし万が一、
今度会ったら、私は迷わず、棒を振り回す。
怖い鬼ババになろうと思う。
でも、一番良いのは、一番願っているのは
もう2度と、里山ではシカに会わないこと。
今度は、どこかの深い山の中で、会いたいと思う。