里山の、マスターTさんの田んぼで、稲が実り始めた。
マスターTさんは、非常にたくさんの田んぼを持っておられるため
田植えは少しずつ順番に、
稲刈りも少しずつ順番に。
その、少しずつ田植えした、一番最初の田んぼの稲が
花を咲かせ、穂を実らせ始めたのである。
こうなると、今年も、イノシシとの攻防戦が始まる。
イノシシは、稲の開花後に来る、<乳熟期>の稲穂が大好きらしく
毎年、この頃になると、
田んぼに飛び込んでは、稲をなぎ倒し
実り始めた穂を食べ散らかして行くのだ。
それはならじ!
と、今年も、またイノシシ対策が始まる。
里山へ通い始めた頃、マスターTさんのイノシシ対策は
田んぼの畦(あぜ)にネットを張り巡らせることだった。
野菜にかける、鳥除けのネットがあるけれども
ああいうネットで、田んぼの周囲を囲っていた。
でも、
このネットは、全くイノシシには歯が立たなかった。
山の手入れに行くたびに、私が目にしたのは、
田んぼの畦道に倒されたネットの支柱。
何度立て直しても
翌週行くと、バタッと、それは倒されていた。
イノシシが、身体で押して倒したのか
ジャンプ一発、ネットを飛び越えた時に、
おなかがネットに引っかかって倒れたのか
とにかく、
イノシシは、やりたい放題をやっていた。
そして
稲刈りが終わってネットを取り外した後は、
ミミズを探して、田んぼや畦や用水路を、グチャグチャに掘り返してくれてたっけ。
里山へ通うようになって2年目、
マスターTさんは、電気柵で対抗するようになった。
それまでも、一部の田んぼでは、実験的には使っておられたようだけれども
この年は、全面的に電気柵を配した。
集落の他の農家では、まだほとんど電気柵・・・・・はもとより
イノシシ対策の仕掛けを見かけなかった頃だ。
集落の中では、一番奥の、山際に家と田んぼがあるマスターTさん。
被害が、最も深刻だったのだろう。
もちろん、
マスターTさんが、篤農家だと言うのも大きいと思う。
その電気柵は、効いた。
最初は、何も知らず、ジャンプして柵を飛び越えるイノシシ。
しかし、田んぼを走り回るうちに、鼻が電気柵に触れたか
「いてぇーーー!!!」
と、大慌てで飛び出した様子。
以来、2度と、田んぼが荒らされることはなかった。
そして、稲刈り後も、
次の田植え直前まで、ずっと電気柵を残しておいたため
畦などが掘り返される被害も少なかった。
ただ、
この年は、電気柵を張る時期が、ちょっと遅かったのだ。
一番に実り始めた田んぼ数枚が、グチャグチャに荒らされて
もう、収穫は無理・・・・・
と言う被害が出てから、急いで電気柵を張っておられた。
もったいない・・・・・。悔しい・・・・・。
稲の花が咲き始めた頃、先手を打って柵を張っておけば・・・・・。
などと、私などは思うのだけれども
農繁期のマスターTさんは、ものすごく忙しい。
手間ひまのかかる電気柵張りには、なかなか取り掛かれないのが
実状なのだろうと思う。
なにしろ、電気柵を張るためには
支柱を立てる田んぼの畦を、すべて草刈りしてしまわねばならないのだ。
草が電線に触れると、漏電してしまい
柵に触れても感電しないようになってしまうから。
しかし、
先にも書いたように、マスターTさんの田んぼは、ものすごく広い。
その畦の草刈りをせねばならないうえに、
山際の田んぼに電気柵を張るにあたっては
山の中に支柱を立てて、柵を張らねばならないのだ。
それを、マスターTさんは、ほとんど一人でやっておられる。
イノシシが来るとわかっていても
まだ被害が出ていない時点では
「もうちょっと後でもいいだろう。」
と、先延ばしにされて当然かも・・・・・。
でも、それで、最初の何枚かの田んぼは、メチャクチャにされてしまう・・・・・。
もっと早くから草刈りされないかなぁ。私達も手伝うし。
と、ずっと思っていた。
しかし、こちらから提案できることでは無い。
様々な農作業があり、1年を通してプランを立てておられるマスターTさん。
他人が、余計な口をはさんで良いことでは無い。
そんなわけで、
いつ草刈りされるのかなぁ・・・・・
と様子をうかがっているうちに、
次の週末に行ったら、全部草刈りが終わって電気柵が張り巡らされていた
と言うことになる。
3年目の攻防戦も、同じような感じで過ぎていった・・・・・。
そして、4年目。
今年のマスターTさんの動きは早かった。
稲の乳熟期を控えて、いち早く畦の草刈りを始めたのである。
それでも、
第一番の田んぼには、イノシシが入ってしまったそうで
「明日、電気柵を立てよう、と思っとったら入られたんじゃ」
と、悔しそうなマスターTさん。
しかし、今年は、私達もお手伝いできる。
早くから動き始めたおかげで
後の方から田植えした田んぼの稲は、まだ全然、花も咲いていないのだから。
当然、草刈りも、
これは、もうちょっと後でも間に合うか・・・・・
と言う感じで残っている。
その残っていた畦の草刈りを
先週と、この前の日曜日でやった。
私と、夫と、もうひとりの里山オーナーさんで
ブィンブィンと刈って回った。
早くに草刈りすると、また雑草が伸びてきて、再度刈らねばならないけれども
イノシシになぎ倒された稲を見るよりは、よっぽど良い!
夏のこの時期は、山の中に食べる物が少なくて
イノシシも必死なのはわかるけれども
どうか、田んぼに入ってくださいますなよ!今年は!!
ところで、イノシシの被害は、やはり年々深刻になってきているようで
今年は、集落の他のお宅の田んぼでも
イノシシ対策をしているのを見かけた。
電気柵で、いち早く全面を囲ってしまった田んぼあり、
ネットを張り巡らされた田んぼあり。
そして、そのネットなのだけれども・・・・・・・・・・
ただのネットでは、イノシシには効かない
と言うことで
その農家が取った対策は
ネットの支柱に、マネキンの頭部をくくり付けること!!!
確かに、遠目に見たら
田んぼの稲の中に人の頭が出ているように見え、
田んぼに人がいるな
と錯覚しそうなのだけれども・・・・・・・・・・。
2週間前、
初めて、その頭部付きネットを至近距離で見た私と夫が、車の中で
「ぎゃー!」
と叫んでしまったのは言うまでもありません。
もちろん、2週間経った今も、全然慣れません。
支柱と言う支柱に1個ずつくくり付けられていて、全部で数十個ある頭部。
怖いよう。