恥ずかしながら、里山で畑を始めるまでは、
私は、なかなか害虫を殺せない奴だった。
畑をお借りするまでは、ベランダでプランター菜園をやっていたのだけれども
ベランダのプランターに来る虫など、たかが知れている。
その、たかが知れている虫達を
なかなか「斬り捨て御免!」に出来ない人間だったのだ。
例えば、
ベランダのゴーヤの葉に、蛾か何かの幼虫が大発生したことがあった。
この時は、割り箸で、その1センチくらいの幼虫を集めてまわり
まとめて近所の野原へポイ。
「達者で暮らせよー」
と言って、逃げて帰って来たのだった。
また、ある時には、ゴーヤの苗にアブラムシが発生。
これは、さすがにプチプチ潰していったけれども
なんと、
素手で潰すのに抵抗があって、綿棒を持ち出し
それでグイグイと潰していった。
虫が怖いわけじゃないのだけれども
素手で潰したり、つかんだり
と言うことに抵抗があったのだ。お恥ずかしい話。
しかし、
人間、やっぱり慣れてくるものですね。
山の中で畑をやっているうちに
まず、この世で一番怖かったアマ◎エルに慣れた。
畑の野菜の、あちこちに常駐しては、虫を待っている彼らに
最初は、いちいちギョッ!!!としていたのだけれども
次第に「ああ、いてはるわ」。
先日、
黒豆にたかるカメムシを採っていた時など
ふと目を上げると、10センチ先の葉っぱにいたアマガエルと
目と目が合って・・・・・。
数年前なら、「ギャッ!」と叫んで尻もちをつくところが
ニッコリ笑って「やあ♪」とあいさつできた。
もっとも、
その時、アマガエルが、私の顔に向かってピョン!とジャンプして来ていたなら
どう言う醜態をさらしていたのか、わかったものではありませんが。
次に、虫をつかむことと、虫を殺すことにも慣れてきた。
アブラムシは、あっさり素手で潰せるようになったし
野菜にたかる虫をつかんで地面に落とし
ギュウ!と踏み潰すことも、ごく当たり前のことに。
殺生してるなーーー
とは思うけれども
これだけの命を殺したうえで収穫する作物。
野菜の命だけではなく、虫の命もいただいている
と言うことで、私にとっては、ありがたみが増すと言うものだ。
農薬で害虫駆除をしていたなら、この<命を奪う>実感は小さいかもしれない。
ゴキブリを、丸めた新聞紙で叩き潰した時の
その手に残る殺生のリアルさと
キンチョールを吹き付けた時の簡単さでは、全然違いますもんね。
ただ、慣れた慣れたと言っても、まだまだ自然界のハードルは
飛び越えても飛び越えても、なんぼでも先があって、
アゲハの幼虫は
いまだに、どーーーーーーーしても素手では触れないし
踏み潰すなんて、もってのほか。
小枝でつまんで、遠ーーくに持って行って捨てるのが精一杯なのだ。
かつてのベランダ菜園の時の、ゴーヤの幼虫と同じ。
また、
先日、畑の黒豆に
3センチ強はあろうかと言うカナブンが取り付き
ムシャムシャムシャムシャ、図々しくも黒豆の葉を食べていた。
コーノーヤーローー!!
と、動きのノロいカナブンをつかみ取ったのは良いけれども、
さて、それを・・・・・
カメムシみたいにギュウ!と踏み潰せ
と脳は一瞬、命令を出したのだけれども
出来なかった。
でっかいカナブンを、グシャッ!って
ううう・・・・・・・・・・。
もっとでっかいゴキブリを叩き潰せるんだから、カナブンだって
とは思うものの
カナブンの体の厚みが、なんだか怖い。踏み潰すには。
う~う~う~~~
と昔のパトカーのサイレンのようにうなっている間に、
手からポトリとカナブンは落ち、逃げ去ってしまった。
ああ・・・・・、
次々と現れる自然界のハードルの高さよ。
高いハードルと言えば、こんなこともあった。
昨年の秋、
夫と私と、別の里山オーナーさんとで
大騒ぎをしながら、
マスターTさん宅の泉水の大掃除をしたのだけれども
その時、
泉水の脇に置いてある石をどけると、
その下から、でっかいムカデが出て来たのだ。
ムカデは特に怖くないので
「ありゃ、大きなムカデがおりましたわ」
と、単に発見を皆に知らせ
そのままムカデが逃げて行くのを見送っていた私。
が、
その目線の先に現れたのは、マスターTさん。
「ん?」
と思う間もなく
ドン!と、クワを振り下ろして、ムカデを叩き潰した。
「ひええっ!」、
と、ひるむ私にマスターTさん
「これは咬むんじゃ」。
・・・・・そうですよね。マスターTさんにとっては、ここは生活の場。
何かをヒョイとどけた時に、
隠れていたそのムカデに咬まれたら困ります。
また、今年の初夏。
里山の草刈りシーズンが始まった頃のこと。
この頃、草刈りに来た里山オーナー同士が顔を合わせると、出て来る話題は
「マムシを見たで」
「どこでですか!?」
「あっちの田んぼの畦の草刈りしとったら、出た」
「僕も、この間、こっちの畦で姿を見たわ」
ついに、彼らの動き出す季節が来たか
と、皆、戦々恐々。
そんな我々の会話を、たまたま横で聞いていたマスターTさん
「マムシを見たらなぁ、切っといて」
「えっ?」
「刈り払い機で、切っといて」
これには、さすがに困惑した。
だって、この国では、ヘビは神社のご神体であることも多い。
<池の主>として恐れられたり、敬われたりも。
それを、刈り払い機で・・・・・って・・・・・・・・・・。
しかし、マスターTさんが続けて言うには
「見逃しておくとなぁ、繁殖してしまうんじゃ」
確かに。
田んぼや里山は、マスターTさんの職場。
その職場に、マムシがウロウロしていて、かつ繁殖までしてしまったら・・・・・
オフィスだったら一大事ですよね。
とは言え、ヘビを切り飛ばすと言うのは
ハードルとしては、相当に飛び越えるのが難しい・・・・・。
でも、やがては、そう言うことにも慣れていくのでしょうか。
農業をすると言うことや、里山で生きると言うことは
色々な生き物の命を奪うと言うこと。
そして、それを誰か他人にやらせるのではなく、自分ですると言うこと。
ビビッとってはいけません。
でも、
このハードルのゴールは
相当遠くにありそうだなぁ・・・・・。