これは、我が家で愛用している傘である。
確か、クレジットカードのポイントの交換商品として手に入れたもの。
しかし、使用しているうちに、この傘、
信じられないような部分が、壊れ始めた。
↓この金属部品の先端の、丸い部分、
これが割れて、丸いところだけが落っこちてしまうのである。
生まれてから48年、何本もの洋傘を使用してきたけれども
こんな壊れ方をする傘に出会ったのは、初めてだ。
よっぽど◎◎カードの交換商品がボロいのか。
それとも、たまたま我が家にやって来た1本が、不良品だったのか。
ともあれ、丸い部分が落ちた傘は、危険だ。
金属の割れた面が体にあたると、大変に痛い。
ヘタをするとケガをしてしまいそう。
なので、修理をしてもらうべく
夫は、この傘を持ち、高松市内の「S洋傘店」へと向かったのであった。
このお店は、名前からもわかるとおり、
今では珍しい傘専門のお店である。
老舗で、夫が小学生の頃には、すでにもう同じ場所に店があったのだとか。
お店のおじさんは、今は、さすがに代替わりしているけれども
当時も今も
店内にズラリと傘を並べ、静かに商売を続けるS洋傘店。
・・・静かに・・・というのは、つまり、
商売っ気が無いのか、このお店、
いつ行っても、いつお店の前を通っても、
お客さんの姿を見たことが無いのである。
・・・まぁ、老舗には、そういうところ、よくありますよね。
特に、この店の場合、
「傘」という耐久消費物が商品であること、
加えて、ここで売ってる傘が、とても丈夫であること、
(買ったことがあるからわかるのだが、壊れやしないのだ)
などから、ファストフード店のように、客が群がったりしないのだろう
とは思うけれども・・・。
でも、我が家は、そういうS洋傘店に、しばしば出入りしている。
理由は、折れた傘の骨を、
1本たったの100円で修理してくれるから。
100円ですよ。100円。
さぬきうどんがいくら安いからって、1杯100円で食べられる店は、そうない。
かくして、
そんなS洋傘店へ、傘を持ち、夫は訪ねて行ったわけなのだが・・・・・・・・。
さて、この時点で、我が傘の丸い部分は、2個、取れてしまっていた。
1個なら
「たまたま、何か強い衝撃を受けて割れたのかな」
と考えるのだけれども
2個となれば話は別。
「この傘、ボロじゃわ。他の丸いところも、そのうち全部取れるで」
と我々が考えたのも、当然のことと言えるでしょう。
なので、まだ壊れていない部分も、一緒に金具を取り替えてもらおう
と我々は思っていた
のだが・・・・・・・・。
「断られた」
と、その日帰宅した夫。
「は?」
「壊れた部分は取り替えるけど、壊れてないところはダメやって」
「えっ。なんで???」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・めんどくさいんやって」
「はい?」
「これ取り替えるん、面倒くさいんじゃわ~~~~~~~~
って言われた」
た、確かに、この先端の金具を取り替えるのって
小さな穴に通された糸をほどいて、傘の布をはずして、部品を取り替えて・・・
と、七面倒くさい作業が必要になりそうだけれども、
でも、S洋傘店のおっちゃん、
あんた、その作業をする職人さんでしょう~~~???
私は、落語が好きでよく聴くのだけれども
落語の世界には「働くのがイヤな人」というのが、実によく出て来る。
中でも
「芝浜」の魚屋のおっさんと
桂枝雀師匠の「貧乏神」に登場する職人(たぶん大工)のおっちゃんは
ナマケモノ代表の双璧だ、と私は思っているのだけれども
しかし、
所詮、彼らは落語界の住人。
生の世界で、彼らに匹敵する人物に、お目にかかることに
(お目にかかったのは、夫だが)
よもやなろうとは~~~~~~~~!!!
・・・ま、S洋傘店のおっちゃんは、お店は毎日開けているわけだし、
2個のみとは言え、修理自体は受けてくれたのだから
全然働きたくない
というのとは違いますが
でも、
お客に言うかい?
「面倒くさいんじゃわ~~~~~~~~」
を。
と思わず笑ってしまった、その翌日。
夫は、修理の終わった傘を引き取って、家に帰って来た。
「なんぼやったと思う」
とビミョウな口調で聞く夫。
ビミョウな口調からして、ビックリするような修理代だったんだろうけど
う~~~~~~~~ん、
傘の骨が1本100円だったからなぁ・・・・・・・・
と考え込んでいると
「ふたつで100円」
「は?」
「ふたつで100円。1個50円」
って、それ、部品代じゃないの?
あのおっちゃん、
職人の手間賃というものを無視しているのでは・・・・・・・・!!!
つまり、
だ・か・ら
「面倒くさい」
って言葉が出て来るのだろう。
商売っ気が無い、無いとは薄々感じていたけれども
まさか、これほど「無い」のだとは。
あのサブプライムローンが破綻して、世界中が経済危機におちいった時
NHKが、
「何故、こんなことが起こったのか」
を詳しく検証する番組を放送していた。
それを見ていて、
アメリカの金融業界の人々に対し、思わずにはいられなかったのは
「そこまでして、何故、それほどの大金を儲けなければならないのか?」
「そんなに儲けてどうするの???」
・・・儲けるために働くようになった時、人は狂う
としみじみ思った。
「食べるため」「家族を養うため」「世のため人のため」ではなくなった時、
人間は・・・・・・・・。
う~~~む、
それから考えると、S洋傘店のおっちゃんの姿は、いっそ清々しい。
おっちゃんの店は、店舗兼住宅だから、賃貸料はいらないし、
おっちゃんは、見たところ70代にはなっているので、
年金も、きっともらっている。
なので、
ボチボチ稼げたらええんや。
そんなところなんでしょう。
いいじゃないか。それで。
どんどん物を作って、どんどん消費して、経済発展してきた高度経済成長は
もう昔。
あの経済成長のおかげで、敗戦国だったこの国が
教育も医療も充実させることができた、というのはわかるけれども、
あの時代が残したツケは、
使い捨て文化とゴミの山だ。
「バリバリ働いて、どんどん物を買うのが良い人生」みたいな
この国の様相には、もう私はウンザリなのだ。
もう、そういう時代じゃないでしょう。
・・・というわけで、
S洋傘店のおっちゃんの働き方は、もしかしたら時代の先端を行っている・・・?
(年金世代と現役世代を一緒にしてはいけないかもしれませんが)
ただ、個人的には
どうせいつかは壊れてしまう金具
1個50円のところを、150円にしてもらっていいから、
出来たら、全部取り替えて欲しい~~~~~~~~
とは思うのですが。
いや、
直すのは、壊れた時でええやん
とのんびり構えるのが、これからの時代の価値観なのかな?